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【あらすじ】

この夏は妹に癒されませんか?
すべてを演じ終わった後、「そういうことだったの?」というカタルシスを味わえるかもしれません。
演者さんの思うままに演じていただいて大丈夫です。そのほうが、より味わい深い台本になるように仕上げています。

 

【登場人物】

晴翔(はると):社会人5年目。一昨年、両親が他界し、妹の知夏の学費を蓄えるため奮闘。中小企業ながら、営業部長を任されるほどになる。
知夏(ちか):高校3年生。兄である晴翔とは歳が離れている為、以前から仲が良かったが、両親の他界を機に家族の絆は一層強まる。兄が好き。

​【本文】

(場面:都内某社オフィス)

晴翔:はぁ〜……、ハァーーーー。もう23時か……。

 

誰もいなくなったオフィスでひとりつぶやく。

 

晴翔:でも、俺がヘルプに入れたから、若手の負荷も下がったし、結果的には良かったんだよな。
晴翔:若い子の辛い顔なんてみてられんし。つらいことは部長である俺がやればいいんだ
晴翔:みんなが、この会社で働いて意味があったと思えるように
晴翔:そういえば甲子園どうなっただろ、木更津(きさらづ)勝ったかな。甲子園ダイジェストを見る時間もなかったな

知夏:お兄ちゃん、いつもお仕事お疲れ様!頑張ってて、えらいえらい
晴翔:はっ!知夏の幻聴が。
晴翔:知夏のやつ、ちゃんとご飯食べたかなぁ。寝る前にお菓子食べてないか心配だ。俺がいないとすぐだらけるからな。苦手な日本史はちゃんと勉強しているだろうか。
晴翔:本能寺の変はいちごぱんつ(1582年)だぞ。
晴翔:……。
晴翔:それにしても、他のマネージャー達はなんでこんなに早く帰れるんだ?
晴翔:全然おわんねぇーよ。
晴翔:はぁ……、ほんと、役員連中も忙しいって言ってたけど、たかだか数日朝まで働いたくらいで騒がないでほしい
晴翔:あー、目眩がすごい。あと頭痛も。今週ほとんど寝てないし、そりゃめまいもするよな
晴翔:喉も渇いたなぁ。

 

(場面:自宅)

 

知夏:あ、あ兄ちゃん、おかえり
晴翔:ただいま
知夏:もうーおそいよ!何時だと思ってるの?もう夕方だよ?
晴翔:悪い悪い、なかなか帰ってこれなくてさ
知夏:私のためだってことはわかってるから強く言えないけど
晴翔:何か食べるものあるか?
知夏:ない……から、すぐ作るね!
晴翔:知夏は食べないのか?
知夏:もう夕方だよ、こんな時間に食べたら太っちゃうよ
晴翔:育ち盛りなんだから気にしなくていいのに
知夏:気にするに決まってるでしょ
晴翔:そうか、すまんすまん。
晴翔:そういえば、甲子園どうなった?木更津は勝ったか?
知夏:勝ってないよ、今年は松戸(まつど)だよ
晴翔:そうか、今年は松戸か。それで、勝ったのか?
知夏:今のところは勝ってる。今年は投打ともに強力だからね、松戸は。
晴翔:期待できるなぁ!母校の木更津に勝って欲しかったが、同じ千葉県民、松戸、頑張れよ!
知夏:私は、いつでも校歌を一緒に歌えるように松戸の校歌マスターしてるからね
晴翔:さすがは俺の妹、準備に抜かりがないな。俺も松戸の校歌おぼえるか。
知夏:今度教えてあげるよ
晴翔:今度な、頼むよ
晴翔:そういえば制服着てるってことは今日も部活か?
知夏:そうだよ、練習はオフなんだけど、スコアブック忘れてきちゃって
知夏:うちはお盆明けからは新チームだから、ベンチ入りしてない選手たちのスコアも確認しときたくて
晴翔:マネージャーの鑑だな
知夏:お兄ちゃんが現役の時だって私にやらせてたじゃん
晴翔:野球は科学だからな、スコアはうそをつかない
知夏:本当に野球バカだよね、お兄ちゃん
晴翔:知夏よ、その言葉そのまま返すぞ
知夏:私がこんなになっちゃったのは、お兄ちゃんのせいだもん
知夏:お兄ちゃんがいつもいつも私を連れまわすから
晴翔:野球嫌いか?
知夏:好きだけど!
知夏:でも、夕方まで妹を放っておくお兄ちゃんはちょっと嫌いかも
晴翔:え、割とマジでショックなんだけど
知夏:こんなかわいい妹がいるのにどこで何してたんだか
晴翔:いろいろと寄るところがあってさ
知夏:女のひと?
晴翔:いやいや、浮いた話はずっとないよ。知夏に比べたら、誰だって見劣りする
知夏:うれしい、お世辞ありがと
晴翔:お世辞じゃない
知夏:そう、はい、どうぞ。ハムとかチーズとかあり合わせで挟んでほっとサンドメーカーで焼いただけだけど
晴翔:知夏がつれない……、久しぶりに兄にあったというのに……
知夏:お兄ちゃん、うざ
晴翔:反抗期もかわいい
知夏:もう、朝からかわいいかわいい言わないでよね。ただでさえ暑いのに、もっと熱くなっちゃうよ
晴翔:照れてる知夏、かわいい
知夏:だーかーら、もぉー
晴翔:久しぶりの知夏の手料理、うまいなぁ
知夏:もう、大げさなんだから
晴翔:なんだか、知夏が大人になった気がする
知夏:変わんないよ
晴翔:もっと、お兄ちゃん子じゃなかったっけ?
晴翔:も、もしや彼氏か、彼氏なんだな!
晴翔:お兄ちゃん、許さないぞ
知夏:いやいや、高校3年なんだから彼氏くらいいるでしょ、フツー
知夏:いや、いないんだけどさ……
晴翔:お兄ちゃん安心したけど、心配にもなった
知夏:お兄ちゃんがいけないんだよ、お兄ちゃんより格好いい人いないもん
晴翔:変わらずお兄ちゃん子で安心した~
知夏:私は本気で困ってるんだけど、誰に告白されてもお兄ちゃんと比べちゃうんだよ。お兄ちゃんほど本気で私のこと愛してくれる人いないもん
晴翔:そうだろう、そうだろう。かわいいやつめ、お小遣いをあげよう
知夏:……
晴翔:……知夏?
知夏:……
晴翔:どうしたんだよ、急に黙り込んで
知夏:お兄ちゃん、
知夏:お兄ちゃんがさ、私の事を「かわいい妹」って言うから、私はさ、いつでも「かわいい妹」でしかいられないんだよ
知夏:ほめられるのが嬉しいから、お兄ちゃんに「かわいい」って言われたいから、その姿にいつまでも、これからも、ずっと縛られる続けるの。
知夏:もう、つらいよ、お兄ちゃん……。
知夏:……
晴翔:すまん、そんなつもりはなかったんだ……
知夏:……
知夏:お兄ちゃん、あのね、今日しかもう言えないと思うから、言うね。
知夏:私、お兄ちゃんが好き。気持ち悪いよね、ごめん。私もわかってるんだ。でももうこの気持ち抑えられない。
知夏:大好き、愛してます、お兄ちゃん
晴翔:知夏……、なんというか、うん…、そうか……
晴翔:無粋かもしれないけど、それは恋愛感情ということだよな?
知夏:うん、異性として好き
晴翔:俺もな、知夏が好きだよ。なによりも、他の誰よりも好きだ
晴翔:でもさ、それは親愛であって、恋愛ではないんだ
知夏:うん、知ってる。知ってたからずっと言えなかったの。言えないまま、終わっちゃった。
晴翔:ごめん、ごめんな、知夏
知夏:大丈夫、今日言わないと、私は進めないから
晴翔:そばにいてやれなくてごめん。
知夏:なんでお兄ちゃんがそんなに泣きそうなのよ……
知夏:泣きたいのは私だよ
晴翔:だって、こんなの時、俺は、どうしようも出来なくて、それが悔しくて、つらくて
知夏:もう、ほんとにお兄ちゃんは、お兄ちゃんなんだから

 

外で火が弾けた音がした(どちらかが読む事をお勧めします)

 

晴翔:もういかないと
晴翔:きっとまた、絶対に会えるから
知夏:おにい、ちゃん…、お兄ちゃん!
晴翔:体調崩さないようにな、ご飯ちゃんと食べるんだぞ、自分のしあわせを一番に考えるんだぞ……
晴翔:またな、知夏
知夏:…ばいばい、お兄ちゃん。


知夏:この夏、私は失恋した。
知夏:遠くで盆踊りの音が聞こえる。
知夏:お兄ちゃんは煙に導かれるようにあるべき場所に帰った――

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