【あらすじ】
ちょっと変わった役柄を演じてみませんか?
検察官と被告人(女子高生)の狂愛と嫉妬に満ちた法廷へようこそ。
被告人は女性として書いてますが、検察官は男女どちらでも良いかと思います。
ト書きは一切書いてません、役者さんの感じたままに演じてもらえればと。
【登場人物】
検察官:被害者の心臓をひと突きした今回の起訴事実に対して被告人に尋問をする
被告人:起訴事実を認めながらも愛ゆえであったと自身の潔白を訴える女子高生
【本文】
検察官:起訴事実に対する公判手続きを開始します。
検察官:被告人には黙秘権が認められています。話したくない事は話さなくてもよいという事です。例え黙秘したとしても、その事が判決で被告人に不利にはたらくことはありません。わかりましたか?
被告人:はい、わかりました。
検察官:それでは、検察官より被告人に尋問します。
検察官:あなたは放課後、被害者を呼び出し、キョウキを以って、被害者の心臓をひと突きした、この起訴状に間違いは?
被告人:ありません。
検察官:なぜ呼び出したの?
被告人:当日はバレンタインデーでした。私、半年も前から、パリ在住パティシエのネット動画で勉強してたんです。世界で一番心のこもった、最高のチョコレートを手作りしたくて。行きたかったライブも我慢して、お小遣いも全て使って……、なのに彼、私以外の女の子からチョコもらってたんです。酷くないですか?私と付き合ってるのに。
検察官:被害者は人気者だったの?
被告人:彼は、人気者でした。野球部のエースで4番、試合ではスカウトの視察もあったほどです。
検察官:そんなに人気なら、他の女の子からチョコくらいもらうよね、それに嫉妬したってこと?
被告人:嫉妬ではないです……。なんだか、もやもやして、すごく嫌な気分になって、私以外に向ける笑顔がなんだか苛立たしくもあって、私の気持ちも知らないで……。
検察官:それを世間一般で、嫉妬というと思うんんだけど、それでも嫉妬ではないと?
被告人:嫉妬ではないです、そうですね、いうなれば真実の愛とでもいうのでしょうか。
検察官:……嫉妬か真実の愛かどうかはさておき、つまりは被害者とは恋人同士だったのに、恋人のあなた以外からチョコをもらった事に嫌な気分になっていたということで間違いない?
被告人:はい、そうです。
検察官:……いつから被害者と付き合っていたの?
被告人:1年くらい前です。
検察官:1年前!?
検察官:あなた達が付き合っていた事は、周囲には話してたの?
被告人:いえ、話してません。
検察官:それはどうして?
被告人:だって恥ずかしいじゃないですかぁ
検察官:それだけ?野球部は恋愛禁止だったと証言があるけど
被告人:確かに恋愛は禁止でした
検察官:それでも隠れて付き合っていたわけだ
被告人:禁止されればされるほど恋は燃え上がりますよね
検察官:……被害者との関係について聞きますね
検察官:付き合う前はどういった関係だったの?
被告人:野球部の選手とマネージャーでした
検察官:マネージャーはあなた1人だけ?
被告人:いえ、私含めて3人です。
検察官:どういった経緯で被害者と仲良くなったの?
被告人:最初は、彼がほめてくれたんです。私が作ったスポーツドリンクを。
検察官:スポーツドリンク?どういうこと?
被告人:気温と湿度から最適な濃さのスポーツドリンクを作ることが得意なんです。
被告人:彼だけなんですよ、私の日々のスポーツドリンクの微妙な違いに気づいてくれたの
被告人:うれしかったなぁ
検察官:他の部員は誰も気づかなかった、その、スポーツドリンクの濃さ?に気づいてくれたことで意識し始めたと
被告人:はい。でも、それからしばらくは、部活中に少し話すくらいでした。明日は話せるかな、そんなことを考えながら毎日眠りました。
検察官:その関係が変わったきっかけが何かあったの?
被告人:彼が告白してくれたんです、彼は私がスコアブックに書く「K」の文字が好きだって、そのためにたくさん三振とるぞって
検察官:馴れ初めは正直理解できないですが、いづれにせよ恋人同士になったと
被告人:はい、ラブラブでした。
検察官:順調にいっていたのに、事件当日、何があったの?
被告人:チョコを渡そうと、放課後練習が始まる前に練習マウンドにきて、と伝えました
被告人:私以外からチョコをもらった事に、怒ろうと思ったんですけど、彼の顔を見たら「やっぱり好き!」ってなってしまって、何も言えませんでした。
被告人:だから、私しか見えないようにすればいい、私だけの彼に、私だけを見てほしい、そのためにはもうやるしかない、そう思いました。
被告人:だから伝えようと思ったんです……
被告人:あなたのマウンドに立つ姿が好き、三振を取った時の笑顔が好き、長打を打たれた後のあなたが好き、授業中に居眠りしているあなたが好き、あなたの全部が好き、この思いを永遠に閉じ込めたい
被告人:でも言えませんでした。その前に彼が言ってくれたんです
被告人:卒業したら結婚しようって
検察官:それで頭が真っ白になって、キョウキ(狂喜)を以って学校中に聞こえるくらいの大きな声で愛を叫んだと。
被告人:彼のハートを射止めたのは私、婚約者ですから、えへへ。
検察官:……これにて野球部臨時部会は閉廷します。男子部員は全員いつものサイゼに集合、被害者のおごりで。